2023年、香川県のホームページに寄稿された文を転載させていただきました。
https://teruhiroando.weebly.com/uploads/2/5/8/6/25867946/message_andou2023.pdf
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― スペインの地方美術館と美術家 ―
スペイン・トレド地方では、オリーブの収穫も順調に終わり、剪定の真っ最中です。香川県ではいかがでしょうか。
さて、スペインにはプラド美術館やグッゲンハイムなど有名な美術館とは別に、各地域に根ざした地方美術館が無数に存在します。今回は、スペインの地方美術館行政が美術家の育成に直接関わっている件について、お便りいたします。
私が、スペインで美術家になれたことと関連しているので、簡単な自己紹介をさせていただきます。
善通寺市に生まれ、高卒後、東京の美大に通い、1985年23歳で渡欧。30歳からスペインの片田舎で生活しています。
スペインでの最初の10年は、生活の基盤づくり。共働きの場合、家事の大半は男性側。家具工場に勤めながら二人の子育て。下の子が小学生になったのを機に、「お父さん、仕事を辞めて美術家になろうと思う」賛成してくれました。40歳の時です。それからは、アトリエが家族の集会所となり、宿題や友達の話をしたり、踊ったり、その横で絵を描いていました。家族の送り迎え、姑の介護。体力だけは自信がありましたから、普通に家事の合間に絵を描いていました。2年後に県で一番、4年後に州で一番の賞をいただき、6年後にスペインで最高の現代美術賞をいただきました。
今、61歳です。世界60の美術館に作品が収蔵されています。すべてコンペに勝って買い上げられた、2m超の大作です。何度も落選を繰り返しながら、いつの頃からか絵で生きている今の境遇になっていました。ちなみに、妻も十数回コンペで受賞し、多くの美術館に作品が所蔵されています。しかも、美術教師を続けながらでした。
おそらく、日本に住んでいたら美術家をあきらめていたと思います。私が、作品制作だけで生活できている最大の理由は、スペイン独特の美術館収蔵品購入方式のおかげです。説明します。
スペインの各地方都市の美術館は、収蔵品購入にあたって毎年オープンなコンペを行います。千点近くの応募の中から一点、多くて三点が購入され所蔵品となります。最終審査に残った入選作品約三十点で展覧会を開き、市民にその年の審査結果を詳細に報告するというシステムです。審査員は利害関係のない外国の専門家も加わり、毎年変わります。年齢、経歴など作者の情報は伏せられています。もちろん出品料は徴収しません。どこまでも透明で作家ファーストな制度です。受賞作家はその後、個展や企画展に招待され、作家として生きていけるよう支援されます。個人コレクターの方たちにも注目され、アトリエを訪ねてくれるようになるという点も、とても重要です。審査員、受賞者ともに女性のほうが多いのが最近の傾向です。
大切なのは、審査員は毎年変わる点と、入選率が3%以下なので、入選するだけでも十分注目される点です。
1950年代からはじまったこのシステムのおかげで、今ではスペインを代表する巨匠の若いころの作品が、多くの地方美術館で見ることができます。しかも巨匠になる前の値段で収蔵できたわけですから、地元民と作家どちらにとっても大きなプラスとなります。
補足すると、スペインの美術品購入制度の予算の多くは地域企業との連携によるものです。コンペの出資者として作品の所有者は企業ですが、美術館に展示維持をお願いするという形をとる場合が多くみられます。お金を出します、口は出しません。地域のイメージアップ=優秀な企業が集まる=人口が増え更に発展する。地元愛の理想的なあり方だと感心した次第です。地方美術館は、どこも基本入場無料です。
美術館=地元民が支援した作家が、時を経て巨匠になって帰ってくる。時間はかかりますが、とても良い関係だと思うのです。
スペインで何の人脈を持たない私でも、このような美術家支援政策に助けられてここまでやってこられました。
一方、《香川県で美術家が育つために、行政サイドとして留意する点》について、日本文化に詳しい美術評論家マリン・メディナ氏の指摘を引用させていただきます。ぜひご参考になさってみてください。
《 私立や都会の美術館と違って、地方の美術館行政は、芸術家とコレクターを育て鑑賞者を教育するとても重要な役割を担っています。少ない予算の中で、市民の『誇りの場』となれるかどうかが鍵です。『権威の場』とならないように、気を付けてください。世界的に有名な作品を購入するのではなく、世界的に有名になる作家を育てるほうに意義があります。
一番大切なのは透明性です。スペインでは、ラ・マンチャ州の小都市バルデペニャス市立美術館の80年前の試みが、現在の地方美術館行政のモデルとなっています。地域企業の参加を促し、市民全体で収蔵品を決めるオープンな制度。学校教育に、現代美術見学が組み込まれていること ・・・中略・・・ 古い体質に苦しむ日本では、敬意よりも権威を重んじる社会構造である為、現代美術の作家も、それを支えるコレクターやキュレーターも育ちにくい環境に置かれています。勲章や賞をコネで手に入れる画伯先生と男社会の壁に、多くの若い才能が潰され続けている、、、日本にしか存在しない美術団体や画壇、出品料を取る公募展という仕組みは、はやく無くなったほうが良いと思うのですが、いかがでしょうか。2010年記 》
40年前、すでに同じ警鐘が日本国内で鳴らされていました。1985年以降の日本を知らない私には、何とも言えませんが、海外から見ると日本社会は特に近年、閉鎖的で不透明になってしまったと感じるようです。
スペインは、1978年の憲法改正によって、中央集権から地方分権へ移行し、政治権力と諸機能が自治州に委譲され、地域整備や都市計画の権限も地方に委ねられるようになりました。その結果、都市再生プロジェクトに中央政府が関与することはありません。したがって、州政府には、縦割りの政策を横断的に調整し、地域整備のための新たな手法を考案する権限があります。こうした制度を背景として、州を構成する自治体が 相互連携のもとで、都市計画の諸課題に取り組むことが可能となっています。これが、過去40年の奇跡的なスペイン発展の原動力となっている、ということも付け加えておきます。
一方、《香川県で美術家が育つために、行政サイドとして留意する点》について、日本文化に詳しい美術評論家マリン・メディナ氏の指摘を引用させていただきます。ぜひご参考になさってみてください。
《 私立や都会の美術館と違って、地方の美術館行政は、芸術家とコレクターを育て鑑賞者を教育するとても重要な役割を担っています。少ない予算の中で、市民の『誇りの場』となれるかどうかが鍵です。『権威の場』とならないように、気を付けてください。世界的に有名な作品を購入するのではなく、世界的に有名になる作家を育てるほうに意義があります。
一番大切なのは透明性です。スペインでは、ラ・マンチャ州の小都市バルデペニャス市立美術館の80年前の試みが、現在の地方美術館行政のモデルとなっています。地域企業の参加を促し、市民全体で収蔵品を決めるオープンな制度。学校教育に、現代美術見学が組み込まれていること ・・・中略・・・ 古い体質に苦しむ日本では、敬意よりも権威を重んじる社会構造である為、現代美術の作家も、それを支えるコレクターやキュレーターも育ちにくい環境に置かれています。勲章や賞をコネで手に入れる画伯先生と男社会の壁に、多くの若い才能が潰され続けている、、、日本にしか存在しない美術団体や画壇、出品料を取る公募展という仕組みは、はやく無くなったほうが良いと思うのですが、いかがでしょうか。2010年記 》
40年前、すでに同じ警鐘が日本国内で鳴らされていました。1985年以降の日本を知らない私には、何とも言えませんが、海外から見ると日本社会は特に近年、閉鎖的で不透明になってしまったと感じるようです。
スペインは、1978年の憲法改正によって、中央集権から地方分権へ移行し、政治権力と諸機能が自治州に委譲され、地域整備や都市計画の権限も地方に委ねられるようになりました。その結果、都市再生プロジェクトに中央政府が関与することはありません。したがって、州政府には、縦割りの政策を横断的に調整し、地域整備のための新たな手法を考案する権限があります。こうした制度を背景として、州を構成する自治体が 相互連携のもとで、都市計画の諸課題に取り組むことが可能となっています。これが、過去40年の奇跡的なスペイン発展の原動力となっている、ということも付け加えておきます。
最後になりましたが、故郷香川県にお便りできる機会を下さり、お礼申し上げます。新しい香川県の活性化に、少しでもお役に立てれば幸いです。
2023年3月 安藤光浩
最後になりましたが、故郷香川県にお便りできる機会を下さり、お礼申し上げます。新しい香川県の活性化に、少しでもお役に立てれば幸いです。
2023年3月 安藤光浩
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